森税理士事務所【税理士】森 敏久
答えを「教える」から「共に探す」存在へ——異色の金髪税理士が試行錯誤の果てに見つけた士業の真価
2026-09-15
人生の舵を自分で切る。経験の積み重ねから始まった挑戦
——まずは、これまでのご経歴についてお聞かせください。
森: 実は、高校まではまったく勉強をしてこなかったんです(笑)。ただ、高校を卒業して一人暮らしを始めたタイミングで「何か一つ強みになるスキルがほしい」と思い立ち、福岡の会計系専門学校に入学しました。そこで官報合格を目指して猛勉強し、3科目合格したタイミングで東京の税理士法人に就職したのがキャリアのスタートです。そこでは、中小企業の財務会計から上場企業の案件、さらには相続やM&Aまで幅広く経験させてもらいました。
——順風満帆なキャリアに見えますが、なぜそこから独立という道を選ばれたのでしょうか?
森: 4年ほど勤め、税理士試験にすべて合格した頃、海外に行ってみたいという衝動に駆られたんです。全く英語ができなかったので仕事を辞めてまずフィリピンに2ヶ月語学留学しました。その後、オーストラリアで10ヶ月間ワーキングホリデーを経験しました。現地では精肉工場で働きました。当時は29歳くらいでしたが、工場では現地の17歳にドヤされたりしてました(笑)。いい経験です。
海外で生活する上では日本の税理士という肩書はほとんど意味がありません。本当の意味で自分という人間の価値を問われたいい経験でした。
「税務の正解」が通用しない。独立直後にぶつかった現実の壁
——帰国後は、大手税理士法人に復職されたそうですね。
森: はい。ただ、帰国後に勤めた大手事務所は一人ひとりのクライアントに人間として向き合うサービスではなく、作業を効率よくこなすシステムの一部になっている感覚があったんです。「それなら自分で独立して、直接人の役に立てる仕事をしたい」と思い、2020年に独立しました。
ところが、独立した瞬間に想像以上の壁にぶつかりました。大手時代は知識のある担当者相手に高度な税務知識や法律の「正解」を答える仕事が中心だったのに、独立後のクライアントは全く違ったんです。
——クライアント層が変わったことで、求められる役割にもギャップが生じたのですね。
森: まさにその通りです。独立して出会った経営者の方々からの相談は、「役員報酬っていくらにすればいい?」「利益は出ているのにお金が手元に残らないのはなぜ?」といった、正解が存在しない悩みばかりでした。設立したばかりの社長は右も左も分からず、そもそも銀行口座の作り方すら知らない状態です。これまでの知識を振りかざすだけでは何の役にも立たないと思い知らされ、自分の無力さを痛感しました。
泥臭い現場に伴走し「答えを一緒に探す」パートナーへ
——そのギャップを埋めるために、どのような試行錯誤があったのでしょうか?
森: 「きれいごとを言っている場合じゃない、泥臭く現場に飛び込もう」と腹をくくりました。売上が悪いと言われれば現場を見に行き、銀行口座が作れないと言われれば一緒に金融機関の窓口まで付き添う。融資を受けるための試算表作成や役員報酬の最適な配分シミュレーションをグラフ化して分かりやすく説明するなど、泥臭いサポートを徹底したんです。
その中で気づいたのが、税理士の本当の役割は「正解を教える仕事」ではなく、「経営者と同じ目線で一緒に答えを探す仕事」なんだということでした。
——知識の提供者から伴走者へと意識が変化したのですね。クライアントとの関係性で特に気をつけていることはありますか?
森: 距離感の保ち方ですね。親身になることと、友達になることは違います。距離が近すぎると「これくらい安くして」「これ経費で落ちるよね」といった甘えが生じ、経営者自身の自立を阻害してしまいます。
かといって、遠すぎても本音の相談はしてもらえない。お互いに「経営のパートナー」という一線を画したリスペクトを持ちつつ、飲み会や対面でのミーティングを通じて時間を共有する。この絶妙な距離感を保つことが、結果として長期的にお互いを高め合える関係に繋がると学びました。
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テクノロジーで時間を作り出し、人にしかできない対話の価値を高める
——金髪というスタイルやYouTubeでの発信、Notionのフル活用など、従来の税理士像に囚われない取り組みも印象的です。
森: 金髪にしたのはYouTubeを始める際、「見た目のギャップや話しやすさで認知を得よう」という戦略からです(笑)。業務面ではNotionを使ってクライアントごとの専用ページを作り、申告書や議事録、会社謄本などをすべて一元管理して共有しています。会計ソフトもfreeeを100%活用しています。よく士業業界では「AIやITに仕事が奪われる」と言われますが、僕は全く逆で、テクノロジーは大歓迎なんです。
——テクノロジーの進化に対して、どのような未来像を描いているのでしょうか。
森: 手作業や単純な集計作業をクラウドやAIが肩代わりしてくれるからこそ、浮いた時間を使ってクライアントと直接対話する時間を増やせます。前提となる複雑な文脈や経営者の生の感情を正確に読み取ってプロンプトを打つことは、納税者本人やAIだけでは不可能です。泥臭く相手の悩みに寄り添い、法律の枠組みの中で最適な選択肢を共に考える。作業効率化の先にある「人にしかできない相談対応」にこそ、これからの時代における税理士の真価があると確信しています。
一歩ずつ確実に進む。拡大を焦らない事務所の未来
——今後の事務所の展望についてお聞かせください。
森: 急激な規模拡大や組織化は考えていません。過去に急拡大の中で、スタッフのマネジメントに苦しんだ経験があるからです。それも経営者の悩みを追体験する良い授業料だったと捉えていますが、これからはじっくりと一歩一歩進んでいきたいですね。
YouTubeなどの発信を通じて共感してくれる仲間やクライアントを集めつつ、3年後を目処に信頼できるスタッフを少しずつ雇い、良好な関係を保てる規模で分業を進めていきたいと考えています。
——「クライアントファースト」を貫きながら、ご自身のペースで進化を続けていくのですね。
森: そうですね。自分がストレスを抱えてクライアントとの関係が悪くなっては、元も子もありませんから。今抱えている約30件のクライアントに対して、決算書の見方から経営指標の比較、株主総会議事録の作成まで徹底的にコミットする。地道ですが、この地に足のついたサポートの積み重ねこそが、次の新しいビジネスや挑戦への確固たる土台になると信じています。
人生の経験値こそが最大の武器になる
——先生のような挑戦をしている方と直接話してみたいと感じる読者は多いはずです。士業の集まりやイベントなど、交流の場に期待することは何ですか?
森: 事務所の規模や売上といった分かりやすい数字だけでなく、どのような思想でクライアントと向き合い、どんな試行錯誤をしてきたかという「生の実践談」を語り合える場になれば嬉しいです。
僕自身、大手での作業特化型から独立後の泥臭い伴走型へのシフト、海外経験や失敗した組織作りなど、数多くの脱線と遠回りを繰り返してきました。そうした等身大の経験を共有し合うことで、参加する皆さんが自分のキャリアを捉え直すきっかけになれば最高ですね。
——最後に、この記事の読者へメッセージをお願いします。
森: 税務や会計の知識を磨くのはプロとして当然ですが、それと同じくらい「人生の経験値を増やすこと」に時間を使ってほしいです。海外へ行くでも、今まで関わったことのない業界に飛び込むでもいい。一見すると仕事に直結しないような挑戦や失敗のプロセスすべてが、将来、深い悩みを抱えた経営者と対対等に向き合うための「人間力」になります。小手先のノウハウに頼らず、泥臭く自分なりのやり方を試してみてください。耐えて愚直に続けていれば、必ずどこかで良い風が吹きますよ!
先生のご紹介
森 敏久 [MORI TOSHIHISA]
略歴:税理士。
専門学校で知識を深めた後、都内の税理士法人で中小・上場企業の税務会計から相続・M&Aまで幅広く経験。海外留学やワーキングホリデー、大手税理士法人勤務を経て、2020年に独立し「森税理士事務所」を開業する。独立直後の挫折を機に、税務の正解を教えるだけではなく、現場に飛び込み経営者と同じ目線で伴走するスタイルを確立。クラウドツールを活用した業務効率化を進めつつ、丁寧な対話を重視したサポートを行っている。
所在地:東京都墨田区太平2丁目18番2号鎌田ビル1階
HP:https://tax-flamingo.jp/