税理士法人トレイス【税理士/ファイナンシャルプランナー】佐野 元洋

「通過点」から「本業」へ——コンサルタントの夢を追い、組織改革で未来会計を育てる税理士の軌跡

2026-03-2

佐野 元洋

学年最下位から「コンサルタント」を志した高校時代

—— 税理士・会計士業界を目指されたのは、具体的にいつ頃だったのでしょうか?

佐野: 高校時代ですね。奈良県出身で、憧れていた高校に入ったものの、入った途端に勉強をしなくなってしまったんです。学年405人中、いつも390番台。後ろから10人くらいしかいない世界にいました。

模試でついに最下位になってしまい「このままでは本当にやばいな」と感じ始めた時、担任の先生が文系の職業リストを説明してくれた中に「コンサルタント」という言葉があって。何かよく分からないけど、横文字で格好いいなと思ったんですよ。それが最初のきっかけでした。

—— コンサルタントになりたいという思いが、キャリアのスタートだったのですね。

佐野: はい。当時はコンサルタントという仕事がまだ一般的ではなかったので、図書館で調べてみると、まずは大学の経営学部や商学部に進む必要があると分かりました。

「とにかく勉強し直そう」と一念発起しましたが、結局、現役ではどこにも受からず浪人することになりました。その悔しさをバネに猛勉強して大学の商学部へ進学し、そこで初めて、簿記や会計の世界に触れることになったんです。

税理士資格は「通過点」。恩師の言葉がキャリアの後押しに

—— 大学に入った時点で、税理士を目指すことは決まっていたのですか?

佐野: いいえ。会計系のゼミに入り、先生に「将来は何をしたいのか」と聞かれて、「コンサルタントになりたいです」と答えたんですよ。すると「コンサルタントは名乗ってしまえば誰でもなれる。ただし、「資格」という裏付けがないと信頼を勝ち取ることはできないぞ」と言われました。

その時初めて、税理士か会計士の資格を取ったらどうかと提案されたんです。会計士は7科目1発合格が必要で大変そうだったので、科目ごとに取得できる税理士の方が向いていると思って、勉強を始めました。

—— 税理士はあくまで「通過点」という位置付けだったのですね。

佐野: その通りです。コンサルティングを行うための手段であって、税務に安住するつもりはありませんでした。ところが、最初に勤めた会計事務所は税務がメインで、経営計画などのコンサルティングに取り組みたいと提案しても、誰も協力してくれなかったんです。その経験が、独立へ向かう要因の一つになりました。

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顧客からの一言が独立を決意させた

—— 30代前半で独立されたとのことですが、決定的なきっかけは何だったのでしょうか?

佐野:当時の顧客である、経営者からの言葉が大きかったですね。保険の提案をした時に、社長から「損したらどうしてくれるんだ」と言われたんです。責任が取れないと正直に答えたら、「そうだろう、お前はサラリーマンだからな」と。

経営者と対等に話をしているつもりでも、やはり同等には見てもらえていなかったんですよ。経営者と本当に対等に話をするには、自分自身で経営を経験する必要がある。その気づきから、独立を決意しました。

—— 独立後、経営はすぐに軌道に乗りましたか?

佐野: いいえ。独立直後はDMなどで集客を試みたのですが、全く反応がなく、むしろクレームの電話で心が折れてしまいました。その後、友人が務める再生コンサルティング会社と提携して、3〜5年間、裁判所や銀行向けの再生計画作成に携わっていたんです。ただ、そのほぼすべてが失敗する後ろ向きな計画ばかりで、本来やりたいことではないと感じていました。

大量離職の危機を乗り越え、教育を通じた組織再生へ

—— 未来会計を推進されているとのことですが、スタート時点で組織的な変化はありましたか?

佐野: 2018年頃から未来会計を本格推進し、20社以上の案件を抱えていました。そこで、作業と外回りの役割を強引に分離し内勤4名、外回り4名という体制に分けたんですが、結果的にすべての事務作業が内勤の女性スタッフに集中してしまったんです。

彼女たちの不満が爆発し、2ヶ月の間に4人が一斉に辞めてしまいました。すると外回りの4人も、自分たちに業務のしわ寄せが来ると思ったようで、うち3人が独立してしまったんです。結果として、8人中7人が一度に退職するという事態になってしまいました。

—— 大変な経験だったと思いますが、そこからの回復はどのように進んだのですか?

佐野: 一時は諦めかけましたが、ある講演会をきっかけに「教育」に軸を置いて再スタートしました。今のスタッフは、未経験から始めて約2年。彼らには「私たちが扱うのは単なる数字ではなく、顧客の大切なお金であり人生だ」という本質を伝え続けてきました。

具体的には、毎月の「ビジョン会議」で雑誌『致知』の読み合わせを行い、人間力を磨く時間を設けています。形のない商品を扱う仕事だからこそ、担当者の人間性が付加価値そのものになります。人間性を高めてこそ、経営者と真の対話ができるようになる。そうした意識付けを徹底したことが、組織再生に繋がったと考えています。

未来会計の定着に向けて。若手と共に歩む事務所の挑戦

—— 現在、事務所の中で最も若いスタッフの方はどのくらいの年代ですか?

佐野: 昨春入社した、22歳の新卒スタッフです。前向きに仕事に取り組んでくれていますが、今はまだ、自分の役割を全うすることで精一杯な部分もあります。今後は、チーム全体の状況を捉える視点を養っていってほしいですね。プロの世界で活躍するためには、周囲と歩調を合わせ、支え合うことが欠かせません。

今はまだ環境に守られている分、成長への切実な危機感は持ちにくいかもしれませんが、これから繁忙期を乗り越え周囲の動きを肌で感じる中で、自然とプロとしての意識は芽生えてくるはずです。彼が自分自身の枠を越えて「化ける」瞬間を楽しみに、その成長をじっくりと見守っています。

—— 現在、事務所として最も注力している領域についてもお聞かせください。

佐野: やはり未来会計ですね。現在、未来会計の専任者は3人なのですが、それ以外の税務担当者や新人も含めて、全社的に巻き込む工夫をしています。毎月の決算後、新人2人にも未来診断を作成してもらい、その診断を持って決算説明に同席させることで、自然と意識付けができるようにしているんです。完全に定着しているわけではありませんが、皆が協力しようという姿勢で取り組んでくれています。

10年後への成長に向けた3つの柱

—— 今後のビジョンについては、どのようにお考えでしょうか?

佐野: 私は現在55歳ですので、65歳となる10年後を見据えた事業承継のフェーズだと捉えています。今後5年で後継者を育成し、次の5年でバトンを渡す。そのために専門分野ごとの組織化を進め、現在の10名から30名体制への拡大を目指しています。

その成長を支えるのは、これまで注力してきた「未来会計」、団塊の世代のニーズが高まっている「相続・事業承継」、そして「経理代行」の3つの柱です。特に経理代行は、DXで徹底的に効率化することで、人材難に悩む中小企業と私たちの双方にメリットがある「三方良し」の形を築けると確信しています。

——後継者育成に向け、独自のアプローチをされているそうですね。

佐野: ええ。これまでは、資格者がマネジメントも兼ねるのが業界の常識でしたが、優秀な資格者ほど独立していってしまう。ならば、両者を完全に分離すればいいと考え、マネジメントに特化できる人材を外部から招き入れることにしたんです。マネジメント層は必ずしも税理士である必要はないという「発想の転換」こそが、持続可能な組織作りの鍵になると考えています。

——最先端のツール活用についても積極的ですが、AIとの共存についてはどのようにお考えですか。

佐野: AIは競合ではなく、私たちの可能性を広げるパートナーです。ChatGPTの活用やNotebookLMへのナレッジ蓄積に加え、助成金を活用したAI研修など、全社でリスキリングに取り組んでいます。議事録作成などの事務作業をAIで効率化し、そこで生まれた時間を経営者との対話や本質的なコンサルティングに充てる。それこそが、私たちが目指す未来の会計事務所の姿です。

経営を経験する勇気と、人間力で顧客に向き合う覚悟

—— 最後に、税理士・会計士を目指す読者の方々へメッセージをお願いします。

佐野: 税理士や会計士の業界は、単に税務知識だけでは足りません。経営者と対等に対話し、真の価値提供をするには、自分たち自身が経営を経験し、人間力を磨き続けることが不可欠です。

私たちは顧客の大切なお金を扱う仕事をしています。その責任と覚悟を持ち、常に学び、常に成長する姿勢を忘れてはいけません。独立や組織改革は決して楽なことではありませんが、その先にあるビジョンを信じて、一歩ずつ進んでいくことが大切だと思います。

先生のご紹介

佐野 元洋 [SANO MOTOHIRO]

略歴:税理士/ファイナンシャルプランナー。
奈良県出身。高校時代の落ちこぼれ経験からコンサルタントを志し、税理士資格を取得。会計事務所での勤務を経て、33歳で独立。経営者との対等な対話を目指し、未来会計の推進に注力。2019年の大規模離職を乗り越え、教育と人間力向上に重点を置いた組織改革を実施。現在は未来会計、相続・事業承継、DXを活用した経理代行を3本柱として展開。10年後の30名体制構想と後継者育成に向け、資格とマネジメントの分離を進めている。

所在地:大阪市北区東天満1-10-12

HP:http://trayes.jp/