「お客様が本当に求めるサービスを」人間性と専門性で中小企業支援に挑む税理士の軌跡

組織の中では届けられない、最高のサービスを求めて

—— まずは現在に至る経緯と、活動内容についてお聞かせください。

柴田：地元の銀行に入行し、金融現場でキャリアをスタートしました。その後、公認会計士を目指し監査法人に転職。上場支援や法定監査に携わるなかで、M&Aや事業再生などの財務コンサルティングを経験した後、独立し税理士事務所を開業しました。現在は税理士業務を軸に、中小企業の経営支援を行っています。

—— 独立しようと思ったきっかけはあるのでしょうか？

柴田：「組織の制約」を感じたことがきっかけですね。「財務や融資といった専門性の高い分野で、お客様である中小企業のお役に立ちたい」という思いを強く持っていましたが、組織の制約の中で、「お客様が本当に求めるサービスを100%提供できているか」と限界を感じたんです。

組織としてのルールは理解できますが、専門家として「自分が納得する最高のサービスを100%提供したい」と思いました。お客様の真のニーズを汲み取り、中小企業経営に深く貢献したい。それが、独立の大きな動機となりました。

目先の利益を追わず、長期的な信頼関係を構築

—— 独立直後はどのような課題に直面されましたか？

柴田：お客様が少しずつ増えていく中で「サービスの質をどう安定させるか」に悩みました。依頼が増えるのはありがたい一方で、対応の仕方や提案の深さにばらつきが出てしまうと、本来提供したい価値が損なわれてしまいます。

当事務所では、お客様対応は原則として私自身が行い、入力業務などはスタッフと分業しています。ただし、経営課題の理解や高度な提案といった部分は自分にしかできない。だからこそ、自分の目が届く範囲で責任を持って仕事をすることが、質の高いサービスを維持するうえで何より重要だと痛感しました。

売上や規模を追うよりも、お客様一人ひとりと長期的な信頼関係を築くことが、結果的に事務所の成長につながると考えています。

—— なるほど。信頼関係を築くうえで、大切にされていることはありますか？

柴田：最終的には「信頼される人間性」ですかね。目先の利益だけを追わず、良い時も悪い時も誠実に対応すること。これは日々の積み重ねですが、非常に重要です。

経営者には人間性をすぐに見抜かれます。私は不動産投資も行っており、賃貸関係のお客様には当事者目線で相談に乗れる。単なる専門知識の提供ではなく、共感と経験に基づく視点が信頼につながります。

また、M&Aや事業承継における株価算定など、専門的で慎重さが求められる分野でも、誠実さが何より問われます。監査法人での経験を活かし、中小企業向けにリーズナブルな価格で提供することで、安心して相談いただける関係を築いています。ニッチな分野ということもあり、今はうちの事務所の「フロント商品」になっています。

幸せの輪を広げるために、AI活用で生産性を高め、前へ

—— 今後のビジョンについてもお聞かせください。

柴田：周りにいる人が皆幸せになれる環境を作りたい。スタッフには働きがいのある職場を提供し、お客様である経営者には事業成長につながるお手伝いをしたい。そのために、停滞することなく、常に前進し続ける必要があります。

具体的には、AIやクラウド会計の活用による生産性の向上です。今の時代は「人数が多い＝売上・利益が大きい」という構図に変化が起きており、AIで業務処理の質を担保しつつ、フロントに立ってお客様に真のパフォーマンスを発揮できる「人間」の重要性が高まっています。

今後は、税務だけでなく、資金調達支援や事業計画の策定など、中小企業が本当に必要とするサービスに、より深く関わっていきたいと考えています。

税理士事務所は「最高の修行の場」

—— 最後に、現場で奮闘する若手に向けてメッセージをお願いします。

柴田：税理士事務所は、中小企業経営のリアルが見える「最高の修行の場」です。資格取得も大切ですが、それ以上に「何を吸収できるか」が重要。日々の業務を通じて、現場のリアルな経営課題に触れ、コンサル的な思考を身につけてほしい。

給料の高い・安いではなく、30代までは投資の期間だと捉え、積極的に学び、経験を積んでいってほしいと思います。その経験が、必ずあなたの専門家としての人生を豊かにするはずです。