石野裕之税理士事務所【税理士】石野 裕之
「街医者のような税理士でありたい」 ──挫折を乗り越えてたどり着いた、理想の働き方
「手に職を」安定を求めて踏み出した税理士への道
—— まずは、これまでのキャリアと現在の活動内容を教えてください。
石野: 新卒で国税局に入り、13年間勤務しました。その後、税理士法人と事業会社を経て独立し、現在は個人事業主や中小企業など、スモールビジネスを営む方々の税務サポートを行っています。
国税時代に培った税法知識や現場経験を活かしながら、お客様の業務効率化(いわゆるDX支援)に加え、「キャッシュを増やす力」を身につけてもらうための教育・指導にも力を入れています。
また、FP(ファイナンシャルプランナー)やプライベートバンカーのような視点から、資産形成のサポートにも今後さらに注力していきたいと考えています。
特に、Webやデザインといったクリエイティブ分野、そして自分が好きなサブカルチャー(漫画・アニメなど)に関わる事業者の方々を支援しているのが、弊所の特徴です。
—— 税理士を志したきっかけは何だったのでしょうか?
石野: 大学で法学を学んでいた頃、不況の影響で父の働き方が大きく変わり、「会社に依存することのリスク」を痛感しました。そこから「手に職をつけたい」と思ったのが出発点です。
当時、友人が簿記3級を取ったことに刺激を受け、ちょっとした対抗心から勉強を始めました。結果的に、簿記3級から2級まで一気に取得しました。
その後、父のリストラをきっかけに行政書士の勉強を始め、宅建の資格も取得しました。
大学3回生のときには、公務員志望者が多いゼミに進みました。周囲が公務員試験の勉強を進める中で、公務員の中でも専門知識を駆使して「巨悪と戦う」国税の仕事に惹かれました。その「社会悪と向き合う」姿勢にかっこよさを感じたことが、結果的に税理士を目指す大きなきっかけになりました。
—— それで国税庁に進まれたのですね。
石野: はい。当時は「社会悪と戦う」という国税の響きが、妙にかっこよく感じたんです。実際に入ってみると、やりがいを感じる一方で、組織の現実に失望することもありました。
適応障害で挫折した時期もありましたし、人間関係に悩んで孤立したこともあります。中には、「いつか税理士になって、調査の場で再会したら絶対に負けない」と思うような相手もいました。
一方で、親身になってくれる上司や先輩、気の合う同僚や後輩にも多く出会いました。ダーツやゲーム大会をしたり、スノーボードやマラソン大会などのレクリエーションもあり、泥臭くも楽しい濃密な時間を過ごしました。
あの経験が、今の自分の原点であり、人として大きく成長できた13年間だったと思います。
独立を後押しした「感謝される仕事の喜び」
——国税ではどんな経験が転機になりましたか?
石野:税務調査で成果を上げ、入局2年目に「優良事績」という、いわばMVPのような賞をほぼ自力で獲得した経験があります。
当時は説得や説明が得意ではなく、上司や先輩のサポートもあってこその表彰でしたが、資料の収集・選定から相手先への臨場、脱税の発見に至るまでの流れは、すべて自分一人でやり切りました。
その結果、統括から高く評価していただき、大きな達成感がありました。
一方で、翌年にはまたゼロから成果を求められる「永遠のループ」に虚しさを覚えました。新人ながらひとつの頂点を見てしまったことで、どこか慢心し、少し醒めてしまった時期でもありました。
現場は「不正・脱税を見つけてなんぼ」の世界です。
本来は正しく申告している人こそ評価されるべきなのに、「脱税を見つけた、やった!」と喜び、調査を受ける側の経営者の人となりや人生の背景を見ず、不正・脱税の発見ばかりに意識を向けている自分がいました。
そのとき、ふと「自分はこのままの人生でいいのだろうか」と感じました。
そんな中、罵詈雑言を浴びることも多い税務調査や確定申告相談の現場で、人として尊敬できる経営者の方や、「ありがとう」と感謝の言葉をくださる納税者の方々に出会いました。
そうした瞬間に、心が浄化され、救われたような気がしました。
「こういう方々に寄り添える街医者のような税理士でありたい」という思いが、税理士を志す決定打のひとつになりました。
国税を辞めた後は、税理士法人に就職しました。
当時は税理士業界のSNSも今ほど活発ではなく、情報も少なかったため、すぐに独立するのは現実的ではありませんでした。
まずは経験を積み、しっかりと準備を整えたうえで、独立に踏み切りました。
「一人税理士」の孤独と挫折から生まれた新たな価値観
——独立後は、最初から順調だったわけではないそうですね。
石野: そうですね。まずはベンチャー企業で経理をしながら副業的に税理士業を行い、やがて完全に独立しました。
ところが、すぐに壁にぶつかりました。SNSで知名度は上がったものの、自信過剰な性格もあって、開業直後はいわば「ゾーン状態」のような無敵モードに入ってしまい、自分に合わないクライアントや、自身のキャパを大きく超える案件まで引き受けてしまったんです。
紹介された案件は義理で断れず、顧問料も安く設定していたため、仕事量ばかりが増えていきました。
その結果、心身ともに限界を迎え、最終的には体調を崩して1か月間入院することになりました。
——そこからどう立ち直られたのでしょう?
石野:実は入院する3~4か月前、確定申告時期にスタッフのいない「一人税理士」として、膨大で特殊な記帳代行を引き受けてしまい、寝不足と過労で限界を迎えていました。
そのとき、SNSでSOSを出したところ、私を心配して新しく入ってくれたスタッフさんや、共同受託で支えてくださった先生方に助けられたんです。
周りの方々の存在があったからこそ、再起できたのだと思っています。
入院を経て、私の価値観は大きく変わりました。
以前の私は「俺に限界なんてない。どんどんレベルアップしてやる。不可能という言葉が嫌いだ」と、自分を追い込んでいました。
それが今では、「健康第一」、「周囲の小さな幸せを大切にする」。
成長や挑戦は続けたいけれど、睡眠や命を削ってまで無理はしない。行動したくても、無理が生じるなら抑える。そんなふうに、自分をセーブすることを覚えました。
燃え尽き症候群も経験し、退院後もしばらくはパフォーマンスが落ち、自律神経の不調からか、常に微熱のような状態が続き、体が鉛のように重い時期を過ごしました。
今でも完全に完治したわけではありません。
当時の苦悩は本当に辛いものでしたが、「一人税理士」としての孤独と限界を痛感したことで、
「安請け合いはしない」「価値観の合う方やお客様と働く」「バックアップ体制を築く」この三つを、自分の中の明確な指針として持つようになりました。
——苦しい経験が、今の姿勢を形づくったのですね。
石野: はい。すべてを一人で背負おうとすると、全てが中途半端になります。だからこそ、得意分野に集中し、他者と組むことが必要だと気づきました。
私の場合は「税務調査」に強みを持ちつつ、FP的視点で資産形成を支援する。仲間と役割を補い合うことで、より質の高いサービスが提供できるようになったと思います。
少数精鋭のチームで、同じ価値観の仲間と共創する
—— 今後の事務所のビジョンについて教えてください。
石野: 少数精鋭のチームで、価値観を共有できる仲間と仕事をすることを大切にしたいと考えています。
業界全体を見渡すと、AIの進化や人手不足、カスハラ・モラハラ、そして不倫や浮気といった一時の気の迷いにも非常に厳しい社会環境など、大きな変化が起きています。
だからこそ、孤独や挫折を経験した税理士同士が、共感し合い、支え合えるようなコミュニティを築いていきたいと思っています。
AIがどれだけ進化しても、「人にしかできない領域」は必ず残ります。
お客様との信頼関係の構築や、税務調査に対する不安を取り除くこと、人生の節目に寄り添うこと、こうした部分こそ、人が担うべき価値だと感じています。
そこを自分の強みとして、真の街医者のような税理士を目指していきたいです。
そのためには、営業から情報収集まで何でも一人で抱える「器用貧乏」状態から脱却し、業務を絞って専門性を磨く必要があります。
具体的には、得意分野を明確にして専門性を研ぎ澄ませ、サービスをより特化させていきたいと考えています。
そして、顧客の資産を増やし、経済的な豊かさに貢献できる、ファイナンシャルプランナーやプライベートバンカーのような存在を目指しています。
自分の経験を糧にしながら、これからも新しい働き方を模索していきたいです。
読者へのメッセージ
—— 最後に、これから独立を考える方へメッセージをお願いします。
石野:一度きりの人生、後悔しない生き方を選んでほしいと思います。
「致命的な失敗でなければ、それは失敗ではない」という気持ちで、何度でも立ち上がってほしい。
色んな打席に立ってチャレンジすれば、失敗のリスクも当然増えます。
けれど、痛みを伴うからこそ、その一つひとつが大きな学びに変わる。
諦めずに何度でも立ち上がって、自分なりの生き方を魅せてほしい。
あなたの人生の主人公は、ほかの誰でもなく、あなた自身です。
あなたの人生は、あなたが描く物語なのです。
先生のご紹介
石野 裕之 [ISHINO HIROYUKI]
略歴:税理士。国税調査官として13年間勤務。
組織に依存せず、組織に依存するのではなく、自らの専門性と行動力で身近な人々に貢献したいという思いから独立。
個人事業主や中小企業を対象に、税務顧問業務を中心としたサポートを展開。
ITツールを活用した業務フローの構築・設計・指導、税務調査対応、行政現場での実務支援を得意としている。
現在は、生成AIを積極的に取り入れ、税務調査対応や相続分野に着目しながら、
お客様の資産形成と経営の安定を支えるために日々研鑽を続けている。
今後は、同じ志を持つ専門家と連携し、税理士法人の一員としてさらなる価値提供を目指す予定。
所在地:東京都中央区銀座1丁目13−12 銀友ビル9階
※来年4月頃を目途に税理士法人の傘下となる予定
HP:https://sites.google.com/zeirishitax.com/ishinohiroyuki/