「誠実であること」こそ格好良さ—顧客に真摯に向き合う税理士の挑戦

バイト代に引かれた「税金」への疑問から、税理士の道へ

—— まず、税理士を目指されたきっかけを教えてください。

泉田： 学生時代、焼肉店でのアルバイトが原点です。一生懸命働いたのに、給与明細を見ると手取りが少なくて。「所得税って何だ？」と、疑問と戸惑いを覚えました（笑）。仕組みも知らずに引かれていることが悔しくて、そこから税金に興味を持ったんです。簿記3級から勉強を始めると面白くて、自然と税理士を志しました。

—— 学生時代に勉強を始め、そのまま資格を取られたのですか？

泉田： 在学中に簿記論・財務諸表論を取得し、大学院を経て税理士法人に就職しました。ただ、多忙や遊びに流され勉強から離れ、気づけば10年のブランクが空いていました。

—— 何がきっかけで再挑戦されたのでしょう？

泉田： 結婚です。人生の大きな節目が背中を押してくれました。妻との将来を考え、このままではいけないと強く感じたんです。妻に「あと1科目、集中させてほしい」とお願いし、支えてもらいながら合格しました。

—— 独立は、いつ頃考えられ始めたのでしょうか？

泉田：  勤務先が大きくなるにつれ、仕事が「ただの作業」になっていくことに違和感を覚えました。お客様との距離がどんどん広がっていく感覚があり、「税理士としてもっと顔を合わせて、人生に寄り添う仕事がしたい」と思うようになったんです。「今の働き方、格好悪いな」と感じた瞬間が、独立を決意するきっかけになりました。

「格好良さ」と「誠実さ」が育む信頼関係

—— では、独立後、事務所として「お客様と顔を合わせる姿勢」を大切にされているのですね。

泉田： そうですね。オンラインが主流の時代ですが、初回だけでも対面でお会いするようにしています。人となりを少しでも知っていただくことで、信頼関係が生まれると考えています。お客様はみなさん「自分の大切なもの」をかけて起業されています。人となりを知らない相手に、それを任せたいと思いますか？私なら嫌です（笑）。

現在は正社員1名、アルバイト1名とともに、お客様一人ひとりにしっかり向き合うことを大切にし、日々試行錯誤を重ねています。

—— その他にも、意識されていることは何かありますか？

泉田： 「格好良くあること」、そのために「誠実であること」です。

若いころに亡くした母の遺言で「格好いい大人になりなさい」と教えられました。当時は漠然とした言葉に感じましたが、今振り返ると、あのとき母は一生答えの出ない教育をしてくれたのだと思います。今の私にとって「格好いい」とは「誠実であること」。今後の人生の中でまた変わるかもしれません。それでも、母に胸を張って顔向けできるかどうかは、とても大切な指標です。

ごまかさない、嘘をつかない、格好つけない。当たり前のことですが、意識していないと忘れてしまいます。お客様の大切な想いに誠実でなければ、信頼は築けません。信頼は「ひと対ひと」で築くもの。AIを活用しながらも、人間として寄り添うフットワークとコミュニケーション力で差をつけていきたいと考えています。

顧客のパートナーとして向き合い続けるために

—— 今、感じている課題は何でしょうか？

泉田：  組織化ですね。現在は私がすべての窓口を担当していますが、今後お客様が増えた際に同じ品質を保てるかが課題です。信頼をいただいている以上、担当が変わることは望ましくありません。だからこそ、自分と同じ価値観で動けるスタッフを育てていきたいと考えています。

—— 将来的な展望についても聞かせてください。

泉田：「泉田が担当で良かった」と言っていただけるのは嬉しい反面、組織としての弱みでもあります。今後はスタッフと熱意を共有し、誰が対応しても安心して任せてもらえる体制を築いていきたい。それでも「お客様に誠実に向き合う姿勢」だけは絶対に変わりません。

まず、一歩踏み出す勇気を

—— 最後に、開業を考えている同業の方へのメッセージをお願いします。

泉田：  開業を悩んでいたとき、たくさんの友人や先輩・後輩の税理士仲間に相談しました。皆さんが背中を押してくれ、中には「もしダメならうちで働け」と言ってくれた方もいました。何より、お客様が心から応援してくれたことが大きかったです。

税理士になるまでにも多くの人に支えられ、なった後も素敵な人たちに囲まれている。それに気付いたとき、「やってみよう」と自然に思えました。私自身もお客様と同じように「大切なもの」をかけて、一歩を踏み出しました。せっかく大変な勉強をして手に入れた資格です。迷わず、自分自身に賭けてみる勇気を持つことも、きっと後悔のない選択につながります…私は、とても楽しいですよ（笑）。