税理士法人碧の空【税理士】長坂 ひとみ
スタッフが納得して働ける事務所を目指して——規模よりも関係構築を大切にする代表税理士の軌跡
2026-03-25
地元の静岡からスタートした税理士としてのキャリア
—— まずは、先生のご経歴についてお聞かせください。
長坂:大学卒業後は、地元である清水に戻り「青木富士雄税理士事務所」で実務の基礎を学び、約4年間勤めました。結婚を機に愛知県に住居を移した後は、安城市の公認会計士事務所(現在は税理士法人)に入社し、税理士資格を取得し、マネージャーとなり約11年間勤務をしていました。
そのときに、青木先生が後継者不足で困っていることを知り、勤務していた税理士法人の静岡事務所として青木富士雄税理士事務所をM&Aで組み入れていただき、そこの所長に就任しました。
2拠点の往復の厳しさと方向性の違いから独立を決意
—— 独立に至るまでの背景について、お聞かせください。
長坂:当時、愛知県安城市の事務所と静岡市の事務所を往復する生活を約10年間続けていました。疲労もあり、静岡事務所に集中したいと上司に伝えた後、静岡事務所の経営権を譲っていただき独立に至りました。
—— 独立の決め手は何だったのでしょうか?
長坂:「方向性が違う」と感じたことが、独立の決め手でした。所属していた税理士法人は規模の拡大を目指す方針であるのに対して、私はスタッフ全員にそれぞれがやりたい仕事をきめ細かく聞き取り、個々が納得してストレスなく働ける組織を目指したかったんです。
また、M&Aにより拠点が増え、無限責任社員として、他拠点の責任を負うことにも、静岡事務所が他の無限責任社員に迷惑をかけることがあるかもしれないことも懸念がありました。そんな私の不安を当時の代表社員が汲んでくださり、独立へ背中を押してくれたことには大変感謝しています。
「分業体制」を維持しながらも、業務を滞らせない経営を実現
—— 独立後、どのような事業運営を実現されていますか?
長坂:私にカリスマ的なリーダーシップはないので、スタッフ全員で進む方向を話し合って決め、月次を公開し、利益が出たら分配するというスタイルを実現しています。また、自計化を推進するTKCの事務所ですが、自計化できないお客様のために、通常の税務顧問契約とは別に記帳代行事業部を新たに作り、お客様1件につき5〜6人で担当する分業体制を導入しました。
それまでは、お客様には一人の担当者が対応し、その人が退職したり産休に入ったりすると他のスタッフに引継の負荷がかかって残業になる、というピンチが何度もありました。残業を減らしたい、育休や介護休暇を取りやすい会社にしたい、そう思ってどの業務も複数担当制にしたのですが、情報の共有に時間がかかるようになってきました。
—— その課題にどう向き合われたのですか?
長坂:「お客様×碧の空スタッフチーム」のChatworkグループを導入して、業務でのコミュニケーションや情報共有を円滑にしました。それまでは社内ではteamsを使って、メンバー同士は情報共有していましたが、お客様とは窓口担当の1人しか繋がっていませんでした。お客様とメンバーが全員直接繋がるようにしたことで、お客様の問合せに、誰でもすぐにお返事できる体制を作ったんです。そうすることで、電話がつながらない、メールの返事が来ないといったお客様を不安にさせることがなくなりました。さらに、先輩がどんな説明の仕方をしているかも直接見られるので、自然とスタッフ教育ができますし、各ポジションによる立場の違いについても理解出来るようになってきたのではと思います。
最初の6ヶ月は、お客様から「チャットの説明文が多過ぎて分かりづらい」とクレームがきたり、グループに上司を入れることについて「監視されている気がする」と嫌がる担当者がいたり、試行錯誤の連続でした。下期の経営方針発表会で、みんなに「チャットワーク、半年経ってどう?」と聞いたんです。「こういうところが使いやすい」「ここは勇気がいる」といったさまざまな意見が出たことによって、方針やルールを決め直すことができました。とにかく喋りやすい雰囲気を大事にしてきたので、みんなが当事者になって決めていく、という理想が実現できてきたように感じます。
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Web集客の成功によりチーム全体のモチベーションが向上
—— 集客の面でも、変化があったと伺いました。
長坂:以前はご相談いただく数自体が限られていたため、どのようなご依頼も引き受けざるを得ない状況にありました。しかし現在は、Webからの集客が増加したため、事務所方針とのミスマッチを防ぐことができるようになったんです。
—— Web集客に力を入れられたきっかけは何ですか?
長坂:コンサルタントの指導を受けたことがきっかけです。私を含む3名でブログの書き方やGoogleマップの口コミ対策(MEO)などを半年間の研修で学びました。
そうしたら、だんだんと成果が上がってきてすごく嬉しかったですね。何かをやったら効果が出る。その実感が、チーム全体のモチベーションに繋がっています。
新規のお客様でも初回面談から本音で向き合う
—— 新規のお客様への対応で、工夫されていることはありますか?
長坂:事業を立ち上げたいという新規のお客様からの相談が増えていて、事業計画やシミュレーションをExcelで作成して提供しています。色付けしたセルだけを、お客様が変更できるように作っておくと、お客様自身で試算ができるようになります。
—— その過程で、気づいたことはありますか?
長坂:最初の頃は「売上はこれくらい上がると思うんです」「役員報酬はこれくらい欲しいんです」「節税したいんです」「とにかく安くやりたいんです」というお客様の考えをそのまま「そうなんですね」と受け入れていました。ですが、後になって「こんなはずじゃなかった」と経営不振に肩を落とすお客様を見たとき、最初から専門家として本音で向き合うことこそが真の誠実さだと気づきました。
今は遠慮なく、初回面談から「その売上はどのくらい現実的ですか?」「役員報酬は利益が出てからにしませんか?」「節税よりまず資金繰りの方が大事では?」「顧問料を安くして月次のアドバイスなしで不安じゃないですか?」と思ったことを正直に伝えています。
お客様との信頼関係の構築は、価格や表面的なサービス内容を整えることも大事ですが、社長のやりたいこと、事業への熱意に共感できるかどうかが重要だと思っています。まずはじっくり社長の話を聞いて、できるだけ具体的な事業の内容を自分の中でイメージし、ぜひ応援したい、と共感できたら、事業計画を立てることやシミュレーションを用意します。作成には少々時間がかかりますが、社長との共通言語となるので、苦ではありません。
規模拡大よりも心地よく働ける環境の維持で事務所をより強く
—— 今後、事務所をどのように成長させていきたいですか?
長坂:事務所を大きくすることは、全く重視していません。一番大切にしているのは、税理士4人を含む今いるメンバーがストレスなく、納得感を持って働ける環境を守ること。育休や介護などその時働ける人員の変化があっても、無理な残業をすることがないよう対応します。売上金額はあくまでその結果変動するものであって、目指すべきゴールではないと考えています。
—— それは、独立当初からの思いですか?
長坂:はい。自分たちが心地よく働ける方向性を大切にしています。良い雰囲気の事務所なら経営者の方にも興味を持ってもらえます。
効率化のために新しいツールもどんどん試してみますが、まずは小さく始めるんです。プロジェクトチームを立ち上げ、新規のお客様に新しい提案して「いいね」と言ってもらえたら、既存のお客様にも提案する、他のスタッフ達にも浸透させる、という順ですすめます。そのトライの積み重ねが、改革を行ったスタッフの自信になり、やり甲斐になり、自然と事務所を強くしていくと信じています。
事務所ならではの「大切にしたいもの」を見つけて
—— 最後に、税理士や会計士など、同じ業界で働く方々へメッセージをお願いします。
長坂:税理士や会計士も、お客様同様、会社経営をしているんです。お客様を選ぶ自由、働き方を決める自由、そうした小さな選択ができることが経営の醍醐味であり、それら選択の結果追い求める理想が、業界の常識や魅力度を変えていくと思います。
何をやって何をやらないか決める、目標のためのアクションをやったら効果が見える、みんなで喜べる。そういう体験を重ねて、一緒に働きたいと思う人が増えていく、ということを実感しています。
自分の事務所ならではの「大切にしたいもの」がそれぞれあると思いますので、それをブレないように中心に添えて施策を考え、みなさんとともに魅力ある業界にしていきたいです。
先生のご紹介
長坂 ひとみ [NAGASAKA HITOMI]
略歴:税理士。
大学卒業後、地元・静岡市の税理士事務所で約4年間の実務経験を積む。結婚を機に愛知県に移住後、かがやき税理士法人で税理士資格を取得しマネージャーとなり約11年勤務。独身時代の恩師の後継者不足を知り、M&Aで静岡事務所として組み入れ所長に就任。独立後は「税理士法人碧の空」で、分業体制とツール導入によりお客様をお待たせしない環境を実現。ストレスのない働き方と顧客への共感を重視した経営を実践している。
所在地:静岡県静岡市葵区鷹匠3丁目18-5 パークサイド鷹匠2階
HP:https://aonosora-tax.com/