株式会社Taxsy/Taxsy会計事務所【取締役】頓所 八重
「人にしか提供できない価値」の追求——AIネイティブを目指す会計事務所が描く、国境を越えた“ハッピーの輪”
異業種から会計業界へ。内部業務のAI化で現場を変える
—— 現在、頓所さんは会計事務所とシステム開発会社の2つを経営されていますね。どのような関係性なのでしょうか。
頓所: 会計事務所の内部業務をAI化するために、システム会社で開発を行っています。外販目的ではなく、あくまで自社の生産性を高めるための“内製ツール”ですね。完全人力だった記帳などを自動化し、職員がより価値ある業務に集中できるよう整えています。
AI化は手段ですが、それによって「本当に必要な仕事」に人の力を使える環境をつくりたいんです。
—— もともとは不動産業界にいたと伺っています。なぜ会計業界に?
頓所: 不動産と並行して会計事務所の仕事もしていました。独立を考えていたので、会社の仕組みや数字の動きを理解したくて。
正直、会計事務所の仕事が好きだったわけではありません(笑)細かい作業は不得意だし、ずっと座っているのが苦痛で、1年半で辞めてしまいました。ただ、当時同僚だった代表の木村から、「税理士らしくないことをしよう」と言われたときはピンときました。普通の会計事務所ではできない挑戦ができると思ったんです。
AI化の原点は「思考停止」と「非生産性」への強烈な違和感
—— 会計事務所のAI化を進める根底には、どんな原体験があるのでしょう?
頓所: 大企業にいた頃、自分の3倍の給料をもらっている上司に、毎日私が業務内容や表計算を教えているという状況がありました。不動産デベロッパーで原価計算の仕事をしていましたが、消費税区分の違いもわからずすべて「非課税」で入力している。正直、「この人は会社に何の価値を生んでいるんだろう」と強く疑問を持ちました。
思考を止めたまま年功で給料をもらう。そんな構造が日本をダメにする。そう思っていたところに、AIの発展がありました。
実力主義で成果を出した人が評価されるべきであり、それはAIも同じ。人がやらなくてもいいことは機械に任せ、人にしかできない部分を極めたい。それが私のAI化の原動力です。
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「頼んでみよう」と思える存在へ。追求するのは顧客への“真の提供価値”
—— 今は、システム開発でも中心的な役割を担われていますね。
頓所: はい。私は「要件定義」、つまり“何をどう動かすか”を設計する担当です。実装はエンジニアに任せますが、方向性はすべて代表の木村と私が決めます。対人コミュニケーションや実行推進が得意なので、COO的な立場が性に合っていますね。
事務所としても、それぞれが得意な領域に集中できるよう分業しています。たとえば、私はざっくりでもとにかく前に進めるタイプ(笑)で、木村は細かいところまで気づける人。お互いの弱点を補える関係性を築いています。
—— 組織運営では何を一番重視しているのでしょうか?
頓所: 「価値あるものをつくり、届ける」ことです。以前銀行で勤務していたときは、会社都合でお客様が求めていない商品を売ることに違和感を抱いていました。
やっぱり、お客様が本当に必要としているものを提供して初めて意味がある。現在提供している自分たちのサービスも、「税理士なんて自分にはまだ早い」と思っていた人でも、”ちょうどよく”利用できる存在になることを目指しています。
会計業務の完全自動化が拓く、国境を越えた“ハッピーの輪”
—— 現在、特に注力している取り組みを教えてください。
頓所: 会計業務の完全自動化です。まだ人の手が入る記帳などを、AIが全て処理できるようにしています。会計事務所の仕事は社内完結型が多い分、AI化との相性がいいんです。
だからこそ、より人間の価値が問われる。AIに奪われる仕事を恐れるより、AIが生み出す余白にどんな価値を築くかが大切だと考えています。
—— 今後の展望についても教えてください。
頓所: 在日外国人との接点を増やしたいです。多様な国籍、バックグラウンドを持つ人たちが増える中で、「日本人だけが幸せ」では意味がない。国や言葉を越えて、もっと広い“ハッピーの輪”を作っていきたいですね。
AI化は脅威ではなくチャンス!人にしかできない価値の提供に注力しよう
—— 最後に、税理士・会計士の読者へメッセージをお願いします。
頓所: 私は税理士ではなく、会計の分野では簿記3級の資格しか持っていません。でも、「価値のない仕事はしない」という信念だけは強く持っています。自分以外にできることーーたとえそれが人間よりもAIのほうが成果を出せる仕事だとしたら、その仕事はAIに任せて自分にしかできない価値提供に時間を使う。そのシンプルな原則を忘れないことが、これからの時代には欠かせないと思います。
AI化の波は脅威ではなく、本質に立ち返るチャンス。私たちの取り組みが、少しでもその後押しになればうれしいです。
先生のご紹介
頓所 八重 [TONSHO YAE]
略歴:銀行や不動産勤務を経て、リライル会計事務所時代の同僚である木村氏と会計事務所を立ち上げる。現在は、会計事務所の内部業務をAI化することを目的に、株式会社でシステム開発を行い、事務作業の自動化を推進している。開発したシステムは、会計事務所を通して中小企業や個人事業主へ提供。税理士を身近に感じてもらい、従来頼めなかった層へのサービス拡大を目指している。顧客対応やシステム要件定義の設計を中心に担当。
所在地:東京都港区虎ノ門二丁目2-1 住友不動産虎ノ門タワー5F